バレエの先生方へ
トレーナーとしていつも悩まされることは、ダンサーが怪我をしたときに、ドクターサイドに立つか、あるいはダンサーのサイドに立つべきか、ということです。もちろんドクター(スポーツドクターに限定)の診断と判断は99%正しいということは認識しています。
それでも、ほとんどのケースの場合、私はダンサーの側に立っています。それは、ダンサーという職業と立場を少なからず理解しているからであり、プロのトレーナーとして、クライアントから”いつ何時までに最善な状態で舞台に立たせてほしい”というオファーがあれば、それに応えるべく全力を尽くすべきだと考えるからです。
もっとダンサーの怪我と疲労に目を
前に述べた”最善な状態で舞台に立たせる”このことはダンサー本人のためだけでなく、指導される先生方皆さんにとっても、あるいはバレエ団や教室にとっても、熱心に足を運ぶ観客のことを考えると当然の義務だと思われます。ですが、正直なところそれを果たすためには、指導される先生方の今ひとつの協力と意識の修正が必要ではないかとも感じています。
早い時期に賢明な選択と理解を
たいていのダンサーは、動けるうちは痛みを我慢します。もちろんそれがいいことだとは思っていないでしょうが、その結果、ダンサー本人も関係者も、決して満足した内容には終わらないことがよくあります(自己満足は別ですが)。できれば、ダンサーが損傷を持つ場合、休める環境を作り、強制的にでも休ませる、あるいは少しでも頻度を抑えて、わずかでも回復に向かわせていただきたい。そして、まずその第一歩として、ダンサー達の”大丈夫です”の言葉を安易に鵜呑みにしないでいただきたいと思います。
プレッシャーなく休ませる
ダンサーは常に自分たちのポジションの変動に不安を持っています。脆さを見せれば今後に響くのではと無意識に計算します。しかし実際には、症状は意外にシリアスなケースが多いことがよくあります。当然ですが、本番が近くなり、リハーサルのペースが上がってきてからでは、スケジュール的にも気持ち的にも、ダンサーたちは休むことを嫌がります。
私が思う最低限の理想の形は、配役が出た時点、もしくはリハーサル開始時期に、故障を持つダンサーたちのスケジュールをきちんと把握し、損傷の度合いによっては、例え1週間でも10日でもレッスンを停止し、治療とリハビリに専念することを出演の契約条件(強い口約束でも構わない)に加えることです。なぜなら、多くの場合、彼らの損傷レベルは1度、悪くても2度程度です。その場合、1週間から10日集中すれば、完治は無理としても、その後のリハーサルと本番を何とかこなせる程度には回復する可能性があるからです。
ダンサーたちに正しいプロ意識を持ってもらうことは、諸先生方と我々トレーナーにとって最も重要なことだと思います。さもないと、迷惑するのは中途半端な舞台を見せられた熱心な観客ということになってしまいます。個人的には、”怪我をしている奴は舞台に出さない!!”ぐらいの姿勢は見せていただきたい。もっとも、”現実はそんなもんだ”という価値観であるならその限りではありませんが。
”俺たちが、私たちが若いころは...”は厳禁!
最後になりましたが、これまでの先生方の偉大な努力の甲斐あって、日本のダンサーのレベルも日ごとに伸びているのも事実です。しかし半面、レベルが上がれば要求も高くなり、当然身体にかかる負担のレベルも格段に上がります。気を悪くされる先生も中にはいらっしゃるかもしれませんが、あえて言わせていただくと、ダンサーはバレエ団や教室の消耗品ではなく、生身の人間であるということを、今一度胸にお留め置きいただきたい。そして、是非とも我々プロの意見にも何とか耳を傾けてもらいつつ、より洗練されたダンサーと舞台を作り上げるための石杖にしていただけることを願ってやみません。
